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2006年7月 9日 (日)

運命の女/モローのスフィンクス

19世紀末のフランスの画家、モローの作品の一つに【オイディプスとスフィンクス】という絵がある。ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されている作品だが、大学生の頃、三重県立美術館が「モローと象徴主義の画家たち」というテーマの展覧会を開催したとき、初めてこの作品を見た。今から20年ほど前のことである。

一目でこの作品に魅せられ、以来、モローが好きになり、美術が好きになった。

もちろん、この題材はギリシャ神話からとっているが、ドラクロワなどの同じテーマの作品とは異なり、オイディプスの胸に爪を立て彼を見つめるスフィンクスの目が印象深い。もし、二人の顔の部分だけをトリミングしてしまえば、宿命の恋人たちの出会いではないか、というような印象も受ける。二人の視線の間にある緊張感と、神話では勝者であるはずのオイディプスの瞳が妙に弱々しく、反対に敗者であるはずのスフィンクスの視線が力強く相手を見すえている。

近ごろ、「勝ち組」「負け組」といった言葉が横行し、妙に社会が荒んできているが、人と人との関係には、勝ち負けよりももっと大切なもの、意味深いものがあるし、それは人生にとってもそうである。だが、それは簡単に答えの出るものではなく、精一杯生きていく中で味わい、深めていくものであろう。この絵を思い出すたびにそんなことを考える。一生を変える運命の女、ではないが、この一枚の絵との出会いは、私に大きなものを残してくれたと言えるだろう。

80年以上も前に書かれた作品が、一瞬の出会いで深い謎と味わいを提供してくれる。あれ以来、再び実物を見る機会は訪れていないが、この絵と出合えたことは本当に幸福だったと思う。

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