« 言葉にすること | トップページ | 男たちのノスタルジー »

2006年7月14日 (金)

《花がたみ》の狂気

もっとも好きな洋画を問われれば、躊躇することなくモローの《オイディプスとスフィンクス》をあげるが、同じようにもっとも好きな日本画を問われたとき、これまた躊躇なくあげるのは上村松園の《花がたみ》である。

《花がたみ》は、初めて実物を見るまでは、その作者の名はもちろん、作品の存在すらもしらなかった。それに私は、その当時は洋画が好きだったので、上村松園の名前も知らずに、ただ、美術館で展覧会をしているから……という理由で入っただけだった。

そして、この作品に出会った。美しき狂気…あえて一言で表現すれば、私の乏しい語彙ではそれ以外の言葉は見つからない。けれども、その全存在をかけて恋に狂った女の美しさ・はかなさ・怖さ・哀しさ、そういったものすべてが気品のある華やかな衣装の胸元の乱れと、うつろで一途な表情に描ききられている。

男として、これほどまでに愛されたい。でも、かなり怖いが……。しかし、これほど美しい女となら一緒に落ちていくのも本望かも知れない。半端ではない想いの強さが狂気をはらむ。それが、美しく、また愛おしい。そんな思いを感じる一方で、本気で創作活動に関わる者であれば、これほどまでに存在を描ききった作品を創造したいとも思った。

ただ、幸か不幸か、今のところ私にはそのような体験はない。おかげで、多少退屈で不満の渦巻く日常生活を、日々、繰り返していけるのである。けれども、それに疲れたとき、戻っていきたい瞬間がある。例えば、この《花がたみ》との出会いもその一つである。

幸い、この《花がたみ》は日本にある。松柏美術館はメトロポリタン美術館ほどには遠くない。どうしても、実物に接したくなったときには、いつでも出かけていけるだろう。

私に、日本画の魅力と表現力を教えてくれた作品……。《花がたみ》は、運命の女のような【絵】なのかも知れない。

|

« 言葉にすること | トップページ | 男たちのノスタルジー »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/120394/2655682

この記事へのトラックバック一覧です: 《花がたみ》の狂気:

« 言葉にすること | トップページ | 男たちのノスタルジー »