« ストコフスキーのベートーヴェン第9 | トップページ | 激突! 天皇杯 »

2006年12月31日 (日)

松園の【焔】をめぐって

上村松園といえば【花がたみ】と共に忘れられない作品がある。能『葵の上』を題材にした作品とされている【焔】(ほのお)である。能の元になっているのが『源氏物語』だが、六条の御息所の嫉妬の凄まじさとそれゆえの哀しさが胸を打つ。それを、平安風ではなく桃山風の女性の姿で描いているところに松園の感性が感じられる。

とは言うものの、【蛍】にしろ【楊貴妃】にしろ【序の舞】にしろ、松園の描く女性の表情には穏やかなものや優しいものが少なくない。その意味では【花がたみ】や【焔】の表情は特異なものと言えるかも知れない。けれども、逆に言えば【花がたみ】や【焔】の表情が描ける松園だからこそ穏やかな表情や優しい表情にも深みを感じられるのかも知れない。

それにしても、【焔】の表情は何とも言えない凄みを感じさせる。背景にある『源氏物語』を知らなくても嫉妬の感情の凄まじさと哀しさは伝わってくる。そして、女の匂い立つような色気も……。これ程までに女性に愛されたいと思うと同時に、そこまで愛されることが怖くもある。二律背反の感情ではあるが、理解してもらえる男性は少なくないと思われる。

そうした作品だから、見ていてほっとするような作品ではないし、長時間見ていたいとはなかなか思えないだろう。けれども、一度見たら、二度と忘れないほどの強烈な印象を見た者の心に深く刻み込んでしまう。その意味では、一度見ただけでも様々なことを語ることの出来る作品である。

決して手元に置いて毎日眺めていたい絵ではない。けれども、女について、恋について、そして生きることについて様々な思いを紡ぎ出すきっかけを与えてくれる。その意味において、忘れることの出来ない印象深い作品である。

|

« ストコフスキーのベートーヴェン第9 | トップページ | 激突! 天皇杯 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/120394/4742995

この記事へのトラックバック一覧です: 松園の【焔】をめぐって:

« ストコフスキーのベートーヴェン第9 | トップページ | 激突! 天皇杯 »