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2007年5月 2日 (水)

『羞恥心はどこへ消えた?』を読む

ジベタリアン、車内化粧など、高校生を見ていて目に入る行動が書かれてある帯を見て手に取ったのがこの本との出会いだった。実際に、二つほどの高校の講師をした経験からすれば、そうした行動が《今までの常識》とは大きくかけ離れている(と、少なくとも教師をはじめとする多くの大人は見ている)ことは理解できる。が、その一方で、高校生の側も、それほどの悪意や考えもなくやっている行動であることも感じられた。そのギャップを理論的に埋めてくれたのがこの本である。

 

大学時代に教育社会学を専攻した経験から、社会学的なフィールド調査やその論的な展開はある程度理解できる。その意味では、本の中に出てくる豊富な実例には、「多分、けっこう回答者も答え難いだろうに、よく調べたなあ」と感心させられた。

 

さて、若い世代の「気になる行動」についての問題だが、それを読み解くキーワードは「関係性」である。羞恥心の問題は、実は他者との関係性の維持や修復などと深く関わっており、それはベネディクトによって「恥の文化」という分析をされた日本以外の欧米や他のアジア文化圏にも共通するものである。

 

関係性の視点から身の周りの現実を見つめ直してみると、「大切な他者」と「関係ない他者」の存在感が浮かび上がってくる。そして、それぞれとの関係をどうしていくのか、という問題で、実は「気になる行動」をしている若い世代ばかりでなく大人たちもけっこう悩んでいる人々が少なくないのである。

 

心に余裕のある人間は、「関係ない他者」であっても、困っていれば救いの手を差し延べることができる。が、その余裕がなければ、「関係ない他者」は無視するか攻撃するかの行動に出ることが少なくない。ジベタリアンや車内化粧などは、その意味では前者であると言えよう。

 

この辺りまでは、著者である菅原の分析を私なりに理解したものをまとめた形だが、その視点をさらに自分なりに広げてみると、少しばかり背筋が寒くなるようなものが見えてくる。例えば、アメリカのイラク侵略や小泉政権の国民生活破壊政策、そして安倍政権の口先政策などがそれである。

 

アメリカ人民の意識はともかく、ブッシュ政権やアメリカの石油メジャーにとってイラク国民は「関係ない他者」に過ぎず、彼らがどんなに苦しんでも自分達さえ金が儲かれば良いからこそ、「関係ない世界各国の政府や民衆」の反対を無視して侵略行為を進めることが出来たのだろう。

 

ただ、日本をはじめとする「同盟国」を巻き込んだのは、さすがにブッシュ政権だけで嘘で塗り固めた侵略戦争を進められるほど厚顔無恥ではなかったということかも知れない。その意味では、ポチ小泉も負けてはいない。論理的にも実証的にも破綻している「非戦闘地域」という言い逃れによって「関係ない他者」である自衛隊を、ロケット弾が飛び、旅行者が誘拐されたり殺されたりする危険な戦場へと送り込んで開き直っていたのだから……。

小泉政権から安倍政権へとつながる日本の政治状況については、外交ばかりでなく内政も非常に悪質な展開になっている。小泉「改革」も、年金制度や地方の郵便システムや、一般の人々の生活が壊滅的な打撃を受け、「関係ない他者である国民」が苦しみ、不便になっても、自分達は痛みを感じずに「豊か」な生活ができるからこそ、国民生活破壊の政策を臆面もなく続けられたのに違いない。安倍政権の強行採決の連続による暴走に至ってはもはやコメントにすら値しない。政治家としての矜持と羞恥心があるのなら、衆議院を解散して信を問うべきことを、その自信がないから、ゴマカシを続けながら民意を無視して、数の暴力を使えるうちに、可能な限り国民主権破壊の政策を強行しようというものである。

 

だが、少なくとも我々は、そのような人間でありたくないし、そんな人間にはなりたくない。多少苦しくても、「関係ない他者」にも手を差し延べられる心の余裕と人間としての優しさを持ち続けていきたいと思う。 〔完〕

【TEXT】

  『羞恥心はどこへ消えた?』

  菅原健介 作  2005年  光文社新書

 

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