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2009年5月 1日 (金)

めーてるの気持ち…背景にあるしんどさ

『めーてるの気持ち』は、マンガ家・奥浩哉が2006~07年にヤング・ジャンプに連載したものをコミック化したもので、全3巻が発売されている。

メーテル…といえば『銀河鉄道999』のヒロインだが、当然、直接これに関係ある訳ではない。主な登場人物は、30歳でひきこもりを続ける慎太郎と、その父親と結婚し、すぐに未亡人になったはるか。他にも慎太郎の父やはるかの母など数人の登場人物場が出てくるが、「めーてる」という名前は出てこない。はるかは、20代前半で慎太郎よりは年下である。このようなマンガに、なぜ「めーてる」が出てくるのか。999のメーテルは、星野鉄郎の母代わりであると同時に恋人でもあった。だが、鉄郎の未来のために、すべてが終わるとひっそりと鉄郎の下を去っていく。そうした点ははるかの立ち位置と重なる。その辺りに「めーてる」が出てくる意味があるのだろう。

作品そのものは、一応、ラブ・コメである。そして最後に慎太郎はひきこもりを脱して家族を持ち、ラーメン屋を経営するまでになる。けれども、そこに至るまでのはるかの努力や迷い、そして慎太郎の、家の外や他者に対する恐怖感などは恐ろしくリアルである。その意味においては、ひきこもる人の気持ちを、マンガという手段によって分かりやすく表現してある作品といえる。

例えば、はるかが風邪で寝込んだとき、慎太郎ははるかのために薬を買いに行き、買い物をして、おかゆを作る。けれども、1歩外に出るだけでも強いプレッシャーがかかり、気分が悪くなる。薬局で薬を買い、レジでお金を払う時も、心理的にはかなりシンドイ思いをしてやっとのことで買ってくる。しかし、はるかが回復するとまた外には出られなくなる。

実際のひきこもりに関わる相談の際に「イベントではなく、アクシデントがきっかけになる」という話をすることがある。周囲が意図的に何かをさせようとしても、本人が心情的に十分に納得できないとうまくいかない場合は少なくない。けれども、周りが意図していない出来事や事件がきっかけになって本人が動くことは意外にある。その点を考えれば、この風邪のエピソードは、けっこうリアルである。

他にも、慎太郎の30歳という年齢設定は、現在、ひきこもりの平均年齢は30歳を超えていると推測されていることから、それほど違和感はない。従って、「時間がない」という周囲の理解は重要だし、自立と関わって異性とのコミュニケーションの問題や性の問題、就労の問題などは大きな課題となる。そして、「母親」が「子どもがすべて」の人生ではなく、母親自身の人生を生きることも、「自立」のための「環境」として大切なポイントである。

はるかは、慎太郎の想いを受け入れることを決断し、「母親」ではなく、「恋人」として慎太郎を外に連れ出し、キスをする。そして、セックスも……。けれども、次の日、はるかは慎太郎が寝ている間に家を出て行く。1つは、慎太郎がズルズルとはるかに依存して自立できなくなってしまうことを避けるため、そしてもう1つは多分、自分の人生を生きるために……。

はるかが去ったことに気づいた慎太郎は、最初は怒り、悲しみ、自暴自棄になってはるかの残してくれたお金を無思慮に使ってしまう。けれども、はるかがどこかで見守っていることを信じて、アルバイトを始めようとする。仕事が出来なくて罵倒され、何度もクビになり、それでも仕事を続けた結果、慎太郎はラーメン屋の主人となり、家族を持つまでになる。

実際は、就労から自立までの過程が大変で困難も多いのだが、この作品は、あくまでもラブ・コメなので一応はハッピー・エンドとなっている。が、実際のひきこもりの本人や家族の状況は、もっとしんどい。その辺りも含めて、気になる部分もあるが、上手に読めば、いろいろなことを考えさせてくれるマンガである。

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コメント

神レビューをありがとう

投稿: ただの | 2010年2月28日 (日) 22時36分

はじめまして。
突然の書き込みで恐縮です。

つい最近めーてるの気持ちを読んで、なぜセックスをした直後のタイミングで出て行ったのか、腑に落ちなかったのですが、

「1つは、慎太郎がズルズルとはるかに依存して自立できなくなってしまうことを避けるため、そしてもう1つは多分、自分の人生を生きるために……。」

のレビューを見てすごく納得がいきました!
ありがとうございます。

ただ、慎太郎に自信を持たせるためとはいえ、なぜセックスまでする必要があったのか…
そこがどうしてもわからないんですよね。
良い話なのに…

投稿: taka | 2010年4月26日 (月) 20時14分

おこしやす。
 
あくまでも「作品」ですから、いろいろな「読み方」があっても良いでしょうけれども、ひきこもり問題でも、性をどうするか…というのも大きな問題です。その意味では、対人恐怖の描き方も含め、かなりリアルに感じられる作品で、良いマンガだと思います。
 
銀河鉄道999のメーテルも母の分身から恋人に近づいて(特に映画版では)いきます。子どもたちも見る映画でしたからキスで終わってましたが唇の感触まで伝わってきそうなラストシーンでした。「めーてるの気持ち」の方は青年誌の連載ですから、あの展開はアリかな、と思います。そして、メーテルも去っていったように、はるかも去っていった。自立のテーマとして考えれば納得できるラストです。

投稿: TAC | 2010年4月26日 (月) 22時39分

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